乳がんの手術
乳がんの手術治療には、乳房を部分的に切除して病気を取り除く温存手術と、乳房すべてを摘出する乳房切除術があります。
さらに、転移の可能性のあるリンパ節を摘出するリンパ節郭清術があります。
そして、リンパ節をすべて摘出することによるリンパ浮腫などの合併症を防ぐために、センチネルリンパ節生検という方法もあります。
これは、乳がんが最初に転移する可能性のあるリンパ節のみを切除して調べる方法です。
私たち乳腺外科医は、できるだけ小さな傷で、確実に病気を摘出できるように緻密な計画をたてて手術に望みます。
それでも、どうしても温存手術ができない場合があります。
それは、がんを取り残す可能性がある場合です。
せっかく、乳房を温存してもがんまで温存してしまったら意味がありませんから。
また、乳房温存手術を行ったあとは、約1ヶ月の放射線治療が必要となります。
以上をふまえて、様々なご提案を外来ではさせていただいています。
現在、基本的には乳房温存術が早期乳がんの標準治療とも言えます。
しかし、全ての早期乳がんで乳房温存術が完遂されるというものではありません。
乳房温存療法の利点と欠点についてお伝えします。
乳房温存術の利点
美容面ですぐれており、身体的・精神的満足度が高い。
20年生存率では胸筋温存乳房切除術とほぼ同等の成績である。
乳房温存術の欠点
術後に5-6週間の放射線治療を必要とする。20年以内に5-15%の確率で残存乳房内にがんが再発することがあり、その場合には乳房の再切除が必要となる。
乳房温存術後に、放射線治療をおこなうことが残存乳房内の再発率を低下させます。
しかし、放射線治療により皮膚がやけどしてしまうので乳房の皮膚が硬くなる可能性があることは、乳房温存をご希望される患者様には必ずお伝えするようにしています。
乳房温存術の適応
- 腫瘍の大きさが3cm以下であること。
- 画像診断で広範な乳管内進展を示す所見(すなわちマンモグラフィーで広範な微細石灰化を認めることなど)がないこと。
- 多発病巣のないもの。
- 放射線治療が可能なもの(放射線ができない他の病気があることや御本人の同意が得られない場合はのぞく)。
- 患者様が乳房温存手術を希望されること。
このように、乳房温存手術を選択するためには様々な条件をクリアしないといけません。
もしこの条件を満たしていない場合でも最近は、術前抗がん剤治療を行うことにより腫瘍が縮小し、乳房温存手術が可能になる方も多くいらっしゃるので、方針については主治医の先生にご相談ください。
がん細胞を残さず取り除くために
せっかく手術でがん細胞を切除するのであれば、局所にはがん細胞を残したくないですよね。
そこで登場する言葉が、腋窩リンパ節郭清です。
これは、転移したがん細胞を残らず切除することを目的としておこなう手術です。以前は、ほぼすべての乳がんの患者様に行っていました。
腋窩リンパ節郭清とは、脇の下のリンパ節を切除することです。
そして、切除したリンパ節を顕微鏡で調べて、中にがん細胞がいるかどうかをチェックすることが重要です。
リンパ節内にがん細胞が存在することは、全身にがん細胞が転移している可能性が疑われます。
リンパ節郭清は、一般的に十数個から二十数個のリンパ節を切除します。リンパ節はリンパ管の途中に存在します。
腋窩リンパ節は、腕からのリンパ流と乳房からのリンパ流の合流地点です。
従って、腋窩リンパ節郭清はリンパ管が途絶えることによって、腕からのリンパ流がうまく流れずリンパ浮腫がおこる可能性があります。
そこで全ての患者様の乳がん手術においてリンパ節郭清をおこなうのではなく、手術前にリンパ節転移の起こりやすい部位のリンパ節を検査して、そこにリンパ節転移が起きていなければリンパ節郭清を省略する、というセンチネルリンパ節生検が行われています。
乳房切除について
乳房切除についてです。最近は温存手術について皆様も勉強されていらっしゃいます。
また温存率といって、各病院がどれくらい乳房温存手術をおこなっているかの比率が新聞で発表されたりしています。
しかし大切なことは、乳腺内に存在するがん細胞は、判明しているものを可能な限り完全切除することで再発率を下げることができます。
そのためにも乳房切除は大切な手術方法です。
1980年代中頃までは、乳がんの手術方法として胸筋合併乳房切除術あるいは拡大乳房切除術が一般的でした。
アメリカとイギリスにおいて、それぞれ独自に胸筋合併乳房切除術と胸筋温存乳房切除術を比較したランダム化比較試験がなされています。
そのいずれにおいても、両術式間に生存率、健存率、局所制御率に有意の差を認めておりません。従って現在、胸筋温存乳房切除術が標準的な乳房切除術として評価されています。
乳房再建について
乳房再建には、一期的再建手術と二期的再建手術があります。
乳がんの手術と同時に乳房再建を行うのが一期的再建手術です。
乳がんの手術が終了し一定期間が経過してから再建手術を行うのが二期的再建です。
いずれにしても、まずは乳がんの治療をしっかり受けることが必要です。そして、乳がんの組織型、乳がんの広がり、切除した断端(皮膚や筋肉)にがんが残っていないか、手術後に放射線治療が必要でないか、手術後の抗がん剤治療が必要でないか、傷が感染したり、治りに時間がかからないか、という事に関して、一段落してから再建手術に臨んでも良いのではないでしょうか。
まずは、乳がんの手術を確実に行い、自分の乳がんがどのような状態にあるかを把握し、今後の方針について主治医とともに一緒に考えましょう。
そして、ご自分の再建への気持ちに変化がなければ次のステップに向かう、という方向性でも大丈夫だと考えます。